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『夢の中で』大熊柚貴

 

<作品情報>

 

■上演時間

声劇にて約20分

 

■登場人物

恵里奈…………22歳の独身の女。好きな男がいる。

謎の女…………恵里奈の夢の中に出てくる女。

 

■執筆日

2020年8月20日

 

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<本文>

 

■19時頃、駅の改札前にて(恵里奈の夢の中)

 

恵里奈は会社帰り、地元の駅の改札を出た時に後ろから声をかけられる。

 

  謎の女  「私とキスしない?」

  恵里奈  「えっ?」

  謎の女  「貴女とキスしたいんだ」

  恵里奈  「ここ、改札前…仕事帰りの人、いっぱいいるし…」

  謎の女  「ね。お願い。どうしても貴女とキスがしたい。」

  恵里奈  「…私…好きな男、いるし。」

  謎の女  「どんな人?」

  恵里奈  「どんな…優しい人…?」

  謎の女  「いい感じなの?」

  恵里奈  「毎日連絡とって、寝る前に電話するようになってて…」

  謎の女  「へえ〜、付き合ってるみたいじゃん!…付き合ってないんだよね?」 

  恵里奈  「多分。言葉にはしてない」

  謎の女  「そうなんだ…羨ましいな、その人。貴女に愛されて。」

  恵里奈  「まだ付き合ってないし」

  謎の女  「お名前なんて言うの?」

  恵里奈  「私?恵里奈」

  謎の女  「バイバイ、恵里奈」

  恵里奈  「バイバイ…?」


 

■次の日の6時半頃、恵里奈の部屋のベッドにて

 

恵里奈、目を覚ます。

 

  恵里奈  「夢じゃん…。」

 

  恵里奈  そりゃそうか。駅の改札前で、キスしたいって。しかも他人。

       私も夢の中だから、「ここ、改札前」って断ってたけど

       それ以前に「誰?」だよね…。

       なんで私、あんな夢みたんだろう。変な夢。いいや、出社しよう。

       帰って寝る前は、いつもの電話。それを楽しみに今日も仕事頑張れる。

 

■19時頃、駅の改札前にて(その日の恵里奈の夢の中)

 

恵里奈が会社帰り、地元の駅の改札を出た時に後ろからまた声をかけられる。

 

  謎の女  「恵里奈」

  恵里奈  「あっ昨日の」

  謎の女  「今日も会いに来ちゃった。改札で待機してたんだ」

  恵里奈  「この辺りに住んでるの?」

  謎の女  「ううん、いや、うんかな。うーん」

  恵里奈  「なんじゃそりゃ」

  謎の女  「そういえば、今日も電話したの?」

  恵里奈  「今日…そっか。これ夢だもんね。今日の寝る前の電話のことか。

        うん、したよ」

  謎の女  「楽しかった?」

  恵里奈  「うん、楽しかった」

  謎の女  「どんなこと話すの?」

  恵里奈  「んー内容忘れちゃうくらい、中身のない話」

  謎の女  「好きな人と話したことなのに?」

  恵里奈  「だって、毎日電話してるんだよ。全部覚えてないよ」

  謎の女  「そんなもんかあ。私なら、毎日日記に書いて記録しちゃうけどな」

  恵里奈  「そういうの、苦手なんだよね。習慣みたいな…」

  謎の女  「嬉しくて、忘れたくないから、つい書いちゃうんだよ。筋トレとかみたいに

        頑張って習慣にするものとは違うよ!」

  恵里奈  「そういうもんかあ」

  謎の女  「私は、恵里奈と話したこと全部覚えてるよ。」

  恵里奈  「えっ?日記書いてるってこと?」

  謎の女  「書いてるし、書いてないことも覚えてるよ」

  恵里奈  「昨日の短い会話だったら、全部書けるんじゃない?」

  謎の女  「違うよ。例えば、表情とか、においとか、文字では表現しきれない記憶」

  恵里奈  「なるほど…?大好きじゃん」

  謎の女  「うん、大好き」

  恵里奈  「貴女は何でそんなに私が好きなの?」

  

■次の日の6時半頃、恵里奈の部屋のベッドにて

 

恵里奈、目を覚ます。

 

  恵里奈  「夢…。」

 

  恵里奈  2日連続、同じ夢か…。変なの。何で好きなのって、

       夢だから理由なんて聞いたところで、意味ないのにな。

       ああ、顔洗おう。今日の電話は、内容、意識してみようかな。

       今日も夢で会ったら、あの子に話せるように。

        

 

■19時頃、駅の改札前にて(その日の恵里奈の夢の中)

 

恵里奈が会社帰り、地元の駅の改札を出た時に後ろからまた声をかけられる。

 

  謎の女  「やっほー」

  恵里奈  「やっほー…」

  謎の女  「えっ、可愛い。何?今の」

  恵里奈  「真似しただけじゃん」

  謎の女  「可愛い〜写真撮りたかった。まあ、絶対忘れないけど。」

  恵里奈  「可愛くないよ別に」

  謎の女  「あれ?今日、テンション高いのかと思ったけど…もしかして、逆?」

  恵里奈  「うーん…」

  謎の女  「ちぇ、私、恵里奈のこと全然まだ分かってないみたい。悔しい」

  恵里奈  「出会ったばっかじゃん」

  謎の女  「そんなことないよ」

  恵里奈  「どういうこと?会ったことある?」

  謎の女  「なんか嫌なことあった?私、恵里奈が落ち込んでるなら

        元気にしてあげたいよ。」

  恵里奈  「有難う。ちょっと、喧嘩って言うか…」

  謎の女  「あの彼と?」

  恵里奈  「そう」

  謎の女  「許せない。ぶっ飛ばす」

  恵里奈  「まだ内容言ってないよ。私が悪いとこ、あると思うし…。今回は内容、覚えてる」

  謎の女  「内容なんて聞かなくても、恵里奈がそんなに落ち込んでるってことは、

        傷ついたってことで、ケアもされてない。ってことでしょ?」

  恵里奈  「それは…でも、言われる私も悪いから」

  謎の女  「そんなことは関係ないのー!!!!」

  恵里奈  「関係あるでしょ」

  謎の女  「人と人は皆価値観違うしさ、すれ違いとか誤解とかもあるし、大事なものも皆違うから

        意見や考え方が衝突することもあるじゃんか」

  恵里奈  「う、うん…」

  謎の女  「でも、その人のことを愛してたら、相手の心に傷がつくようなこと言わないよ。

        もし感情的になっちゃって、傷つけちゃったとしても、その人のことを愛してたら

        傷だらけのその人のこと、ほってなんておけないはずだよ。」

  恵里奈  「私、愛されてないのかな…」

  謎の女  「ごめん。ごめん、恵里奈。抱きしめさせて。」

  恵里奈  「なんか私、誰と付き合っても、愛されてないのかなって感じることが多いんだよね。

        私が愛情表現、苦手だからかな。相手に伝わらないから、相手が冷めちゃうのかな。」

  謎の女  「毎日電話するって、私は愛情表現だと思うよ。」

  恵里奈  「イヤイヤかも…」

  謎の女  「いくら何でも、毎日はしないでしょ。なんか理由つけて断ると思うよ。

        人の本音は行動にでるから」

  恵里奈  「じゃあ、やっぱり愛されてる…?」

  謎の女  「毎日電話するくらいは好きだけど、傷ついても平気なくらいのレベルかもね!

        愛情って0か100じゃないし」

  恵里奈  「難しいな…」

  謎の女  「ごめん。私、すぐ思ってる言葉出ちゃって…。でも、感情的になるほど、

        私許せなかった。」

  恵里奈  「何で?」

  謎の女  「恵里奈のこと愛してるんだもん」

  恵里奈  「どうしてそんなに、私のこと好きでいてくれるの?」

  謎の女  「好きなもんは好き!!!」

  恵里奈  「…そういえば…貴女の名前は?」

 

■次の日の6時半頃、恵里奈の部屋のベッドにて

 

恵里奈、目を覚ます。

 

  恵里奈  「また夢…。」

 

  恵里奈  3日目。おかしい。今まで3日連続、同じ夢なんてみたことないのに。

       同じっていうか…もはや、もう一つの世界みたい。名前、聞けなかったな。

       今日、名前聞けるかな。


 

■19時頃、駅の改札前にて(その日の恵里奈の夢の中)

 

恵里奈が会社帰り、地元の駅の改札を出た時に後ろからまた声をかけられる。

 

  謎の女  「調子はどう?」

  恵里奈  「そこそこ」

  謎の女  「彼とは仲直りできた?」

  恵里奈  「うーん…返事ないし、電話も出ない」

  謎の女  「そっか。最悪。私そいつ嫌い。」

  恵里奈  「内容聞かないんだね」

  謎の女  「内容、関係ないもん」

  恵里奈  「普通さ、何があったのー?から始まって、それはあっちが悪いね、とか

        それは恵里奈が悪いよ、とか、話すじゃん。

        辛かったねーって共感してくれる人もいれば、ズバッと意見言ってくれる人もいる。

        貴女はどっちでもない」

  謎の女  「関係ないよ。どっちが正しいとか間違ってるとかは、私にとって重要じゃないの。

        重要なのは、今、恵里奈が傷ついてることだから」

  恵里奈  「…有難う」

  謎の女  「私、恵里奈のことが本当に大好きで、大事だから、恵里奈が傷ついてる姿

        見てられないんだよ。恵里奈には笑顔でいてほしい。」

  恵里奈  「有難う…」

  謎の女  「ね、私、恵里奈のこと大好きでしょ」

  恵里奈  「すごく伝わってる。変なの。何で好きか聞いてないし、思い出もほとんどないし、

        私は貴女のこと全然知らないのに。不思議」

  謎の女  「本当に大事に思ってたら、伝わるよ。」

  

■次の日の6時半頃、恵里奈の部屋のベッドにて

 

恵里奈、目を覚ます。

 

  恵里奈  「今日はここで起きたか…。」

 

  恵里奈  4日目。一体誰なんだろう。誰っていうか、夢の中の人なんだけど。

       会ったことある人なのかな…名前聞けなかったな。今日、聞けるかな。

       誰なのか知りたい。名前を、呼びたい。私も彼女に何かしてあげたい。

       最近は、帰りの改札を通る時に彼女から声をかけられるんじゃって

       そわそわしてしまう。いるわけないのに。


 

■19時頃、駅の改札前にて(その日の恵里奈の夢の中)

 

恵里奈が会社帰り、地元の駅の改札を出た時に後ろからまた声をかけられる。

 

  謎の女  「おっ?今日は表情が明るいな?」

  恵里奈  「貴女のおかげ」

  謎の女  「へへ。昨日いーっぱい愛伝えたからね」

  恵里奈  「きっとそのおかげかな」

  謎の女  「超可愛い」

  恵里奈  「え?」

  謎の女  「今の表情、超可愛いよ。傷ついた表情を隠してほしいわけじゃないけど、

        元気な恵里奈を見れると嬉しいな。」

  恵里奈  「貴女はいつも元気だよね」

  謎の女  「恵里奈と会ってるから」

  恵里奈  「どういうことで、元気なくなるの?」

  謎の女  「うーん?恵里奈がいなくなったらかなあ?」

  恵里奈  「死んじゃうとか?」

  謎の女  「そうかな。そうかも。」

  恵里奈  「例えば、私が貴女のこと嫌いになったら?」

  謎の女  「んー、それはそれかなあ。私は恵里奈に幸せでいてほしい、それが私の愛。

        私のこと嫌って、私から離れて、幸せに暮らせるならそれも全然アリかな。

        ちょっと寂しいけど、元気なくなるとは違うかなあ」

  恵里奈  「すごいね」

  謎の女  「そう?」

  恵里奈  「うん。見返りのない無償の愛、って感じ」

  謎の女  「見返りは結構ほしい」

  恵里奈  「え?」

  謎の女  「欲は深いよ」

  恵里奈  「というと?」

  謎の女  「まだ、キスしてない、私たち」

  恵里奈  「ええっと…」

  謎の女  「ねえ、恵里奈」

  恵里奈  「うん」

  謎の女  「キスしよ?」

  恵里奈  「………」


 

   

■次の日の6時半頃、恵里奈の部屋のベッドにて

 

恵里奈、目を覚ます。

 

  恵里奈  「はっ!朝…。」


 

  恵里奈  5日目。えらいところで起きてしまった。キスだって。

       そういえば、最初に会った時、キスしよって言われたんだった。

       キスしよって言われて、至近距離で顔すごい見たけど、可愛いかったな。

       まつげ長くて。唇もぷっくり厚めでさ。夢の中だけど、甘いにおいもした気がする。

       今日会った時、どうしよう。また、キスの話になるんだろうか。

       いいや、とにかく起き上がろう。


 

■19時頃、駅の改札前にて(その日の恵里奈の夢の中)

 

恵里奈が会社帰り、地元の駅の改札を出た時に後ろからまた声をかけられる。

 

  謎の女  「恵里奈」

  恵里奈  「ん」

  謎の女  「どういう顔?」

  恵里奈  「ええっと…」

  謎の女  「わかった。昨日のこと思い出してるんでしょ」

  恵里奈  「う…」

  謎の女  「かわい〜!何、今ちょっと顔赤くなったよね?!」

  恵里奈  「うるさいなあ」

  謎の女  「抱きしめちゃう!かわい〜!!」

  恵里奈  「く、苦しいよ」

  謎の女  「うん、幸せそうだ。」

  恵里奈  「有難う。貴女のおかげ」

  謎の女  「へへ、また感謝されちゃったなあ〜。思ったこと言ってるだけだけど、気分よし」

  恵里奈  「私さ」

  謎の女  「ん?」

  恵里奈  「あの男の人と電話あれからしてないんだよね」

  謎の女  「そうなんだ」

  恵里奈  「うん。なんか、もういいかってなっちゃって」

  謎の女  「そっか」

  恵里奈  「ちゃんと最後、自分の悪いとこ、謝ったんだけどね。」

  謎の女  「えらいじゃん」

  恵里奈  「貴女のこと、昨日思い出して、涙出てきた」

  謎の女  「まじ?」

  恵里奈  「うん。全部の言葉が嬉しかった。問題の解決とか、そういう話じゃなくて

        ただただずっと、いろんな言葉で私に、大好き、大切だ、って伝えて

        くれてたよね。」

  謎の女  「うん」

  恵里奈  「気づいたんだ。私がほしかったのは、そういうシンプルな気持ちなんだって。

        共感や、意見を言ってくれることも、もちろん愛情だと思うんだけどさ」

  謎の女  「0か100じゃないからね」

  恵里奈  「うん。ただ、貴女の愛の言葉は、私の心に本当に響いた。有難う。大好き」

  謎の女  「わーー!!!だ、大好きって言われたーーーー!!!恵里奈に!どうしよう!」

  恵里奈  「可愛い」

  謎の女  「嬉しい〜〜〜!!ね、キスしてもいい?」

  恵里奈  「……いいよ」

  謎の女  「ん〜〜〜〜〜〜ちゅっ」

  恵里奈  「…初めて同性とキスしたよ」

  謎の女  「そうなんだ」

  恵里奈  「明日も会えるよね?」

  謎の女  「……」

  恵里奈  「えっ?」

  謎の女  「それは、どうかな…」

  恵里奈  「毎日会ってたのに?」

  謎の女  「貴女もわかってると思うけど、ここは、夢の中だから」

  恵里奈  「ねえ、名前は?」

  謎の女  「………」

  恵里奈  「出会ったばっかじゃんって言ったとき、そんなことないよって言ってたよね。

        覚えてる。話題それちゃって、聞けなかったけどさ。私、どこで貴女と会ったの?」

  謎の女  「………多分、これから恵里奈は、今までより幸せな人生が待ってるよ」

  恵里奈  「質問の答えになってない…」

  謎の女  「恵里奈、大事にしてくれる人と出会うんだよ。私、ずっと願ってるからね。

        私は死ぬまで貴女のこと大事だし、貴女のこと愛してるから」

  恵里奈  「なんでそんな別れの言葉みたいなこと言うの?やだ、明日も会えるよね?

        明後日も会えるよね」

  謎の女  「…………」

  恵里奈  「ねえ、名前教えて」

  謎の女  「………恵里奈」

  恵里奈  「え?」

  謎の女  「私の名前は、恵里奈。またね、恵里奈。ちゃんと大事にされて…愛されるんだぞ」


 

■次の日の6時半頃、恵里奈の部屋のベッドにて

 

恵里奈、目を覚ます。

 

  恵里奈  「朝…。」


 

  恵里奈  その日から、夢の中に彼女が現れることはなかった。

       彼女は、私だった。

       私の迷いや、欲が彼女を生み出したんだろうか。

       いいや、彼女が何だったのかとか、考えるのはやめよう。

       私はあの短い時間で、確かに彼女を愛した。

       そしてこれから、彼女が願ってくれたように生きよう。

       またいつか夢の中で会った時に、今度は幸せな話ができるように。

 

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大熊柚貴

Twitter  @oh_kuma_yuki

WEB  https://ohkumayuki.wixsite.com/official

MAIL   daicyan.kumacyan.yukicyan@gmail.com

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■規約■

上演形態、上映場所に限らずご自由にお使い下さいませ。

性別の逆転や、セリフの言い回しの変更、アドリブ可です。

商用利用も可能です。

 

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