『Counter』大熊柚貴
<作品情報>
■上演時間
声劇にて約15分
■登場人物
遥加(はるか)……23歳の独身女、失恋を重ねている。
基樹(もとき)……23歳の独身男、バルのスタッフ。
■執筆日
2018年2月頃
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<本文>
■20:30、バルのカウンター
遥加「またフラれた~~~~~~~~」
基樹「やっぱりそうなんだ」
遥加「やっぱりって何」
基樹「店に入ってきた時からテンション低かったじゃんか。
わかりやすいよ、晴香は」
遥加「むかつく」
基樹「良いことあった時は、いらっしゃいませって言ったら
おぉ~今日の景気はどーだい!とか何とか
既に出来上がったおじさんみたいな感じで話しかけてくるよ」
遥加「あぁそう。そうです、私は元気がないんです」
基樹「それで愚痴りに来てくれるのは有難いけどね、たくさん飲んでよ」
遥加「ん~~~~~~~」
基樹「一杯目はカシオレ?」
遥加「ジンリッキー」
基樹「甘くないけど大丈夫なの」
遥加「いい。私は強い女なの。フラれたからって平気。だから甘くないのも平気」
基樹「せめてジントニにしたら」
遥加「客の注文に口出すんじゃない」
基樹「すいませんでしたそれは」
遥加「あんたも飲みなよ」
基樹「じゃあ頂きます。」
遥加「あい。」
基樹「……何に乾杯するの?」
遥加「私が新しい男に出会う旅のスタートに」
基樹「よくわかんないけど。乾杯」
遥加「かんぱい~~~~~~~~~」
基樹「何か食べる?」
遥加「んー…おすすめ」
基樹「タコのマリネ、ガリシア風」
遥加「よくわかんないけどおしゃれそう。食べる」
基樹「はい、すぐできるからこれは」
遥加「待つ。…………聞いてよ~~~~~~~~~」
基樹「聞いてるよ」
遥加「もう絶対イケメンはパス。あいつら全員調子のってるもん」
基樹「イケメン代表して謝罪するよ」
遥加「黙れブサイク」
基樹「食べないの?マリネ」
遥加「食べる。」
基樹「はい、どうぞ」
遥加「…………うまい……」
基樹「あとアヒージョとパスタくらい食べれる?」
遥加「食べれる」
基樹「元気でてきたね」
遥加「おかげさまで。まだ何も話してないけど」
基樹「中学の頃から何回目?10回くらいフラれてない?」
遥加「……12回目」
基樹「見る目ないなあ」
遥加「あっちが思わせぶりなことするんだもん。好かれてると思って
告白したらさ、そういうつもりじゃなかったとか、
実は彼女がいるとかさ。ふざけてんの?」
基樹「何で好かれてると思うの?毎回。それが結局勘違いだったってことでしょ」
遥加「可愛いねとか、好きだよとか、そういうの言うし」
基樹「そういうのが挨拶みたいな人もいるから」
遥加「イタリア人?日本人なんだよこっちは~~!」
基樹「遥加を落とそうとして、そういうこと言ってみたりして近づいたけど
思ってたのと違うかったとかね」
遥加「はあ?知らないよ責任とってよ」
基樹「そういう上辺の言葉に本気にならないことだよ」
遥加「どうやって見分けるの?そんなの」
基樹「んー……はい、アヒージョ。エビにしたよ。バケットと」
遥加「は~~~~良い匂い~~」
基樹「でしょ」
遥加「パン、アヒージョにつけると、ガーリックトーストみたいで美味しい」
基樹「パンね、そうね」
遥加「美味しい~~~~~アヒージョは私を裏切らない」
基樹「パスタは何系?」
遥加「イケメンじゃないパスタ」
基樹「わかった」
遥加「わかったの?」
基樹「いや、意味がわからないから俺の作りたいものを作る」
遥加「あっそう。何でも美味しいからいいけど」
基樹「何だっけ」
遥加「何が?」
基樹「話だよ」
遥加「忘れた」
基樹「ええ?……そうだ、上辺と本気の違いだ」
遥加「そういうの男の方が鈍いんじゃないの?男の方が騙されてそう」
基樹「比較的そうなのかもしれないけど、最終的にはその人次第じゃない?
俺には関係ないけどね」
遥加「うーん」
基樹「俺はその人のことよく知らないと本気で好きにはなれないよ」
遥加「ふむ」
基樹「そりゃあ、ちょっといいな、って思うことはあるけど、
本気で惚れるのはそれなりにその人との思い出がないと無理」
遥加「ほお」
基樹「たくさん喋って、その人の考え方とか、長所とか短所とか知って、
いろんな経験を共有して、信頼関係を築いて…って感じで。」
遥加「めちゃくちゃ時間かからない?それ」
基樹「かかるよ。でも安心できるような相手じゃないと俺無理」
遥加「男でもそういう人いるんだ」
基樹「男が全員単細胞だと思わないでよ」
遥加「私の方が男みたい」
基樹「もうちょっとズルさがあってもいいかもね、遥加は」
遥加「ズルさかあ」
基樹「相手もそれくらい俺のこと知ってないと信じられないんだよ。
だから本気にしないかな」
遥加「色々考えてんだね」
基樹「まあ、例え本気で好きになってくれた人がいても応えられないんだけど」
遥加「好きになってくれたら嬉しくない?」
基樹「嬉しいよ。嬉しいけど、別の話だから」
遥加「あんたの方が、ズルく生きた方が良いんじゃない」
基樹「そうかな。」
遥加「何回フラれたことがある?」
基樹「一度だけ」
遥加「…そーなんだ。」
基樹「それ以来ビビっちゃってるっていうのもあるんだけど」
遥加「そんなに傷ついたんだ」
基樹「うん、だいぶ」
遥加「私だって傷ついたよ」
基樹「12回も挑戦してるんだから、たくましいよ」
遥加「過去は振り返らないタイプ」
基樹「だからじゃない?もうちょっと振り返った方が成功しそう」
遥加「うるさいなあ、ご飯まだー!?あと酒なくなったからもう一杯!」
基樹「顔赤いけど大丈夫?」
遥加「へーき」
基樹「疲れてるのかもね、無理するなよ」
遥加「うるさい早く」
基樹「何飲むの」
遥加「同じの強めで」
基樹「大丈夫?」
遥加「大丈夫だってば。」
基樹「ワインもあるけど。パスタに合うような」
遥加「そのパスタまだー?」
基樹「もう出来るよ。アマトリチャーナ」
遥加「アマ…何?」
基樹「アマトリチャーナ」
遥加「イケメンぽくない」
基樹「自家製パンチェッタと玉ねぎ、チーズでトマトソース。
ローマの町、アマトリーチェが由来してるよ」
遥加「要はベーコンのトマトスパゲッティ」
基樹「そんな感じ。トマト好きでしょ?」
遥加「大好き」
基樹「女性が好きな味。うちのパンチェッタは美味しいよ」
遥加「おいしそう」
基樹「はい、ご飯とお酒だよ」
遥加「おいしそう」
基樹「保証する」
遥加「…………おいしい」
基樹「さっきのテンションと違うけど、本当に大丈夫?お水飲む?」
遥加「いい」
基樹「潰れないでね」
遥加「うん」
基樹「どういう男が好きなの?イケメン?」
遥加「別にイケメンが良いわけじゃない」
基樹「イケメンに引っかかってるじゃんか」
遥加「全員がイケメンだったわけじゃないもん。ほら、高校の時の」
基樹「どの人?高校でもいっぱい告白してたじゃん」
遥加「2組の細田」
基樹「細田…ああ、あいつか。確かにイケメンではないかもね。
何で好きになったの?」
遥加「優しいんだもん」
基樹「優しいで惚れてたら心いくつあっても足りなくない?」
遥加「足りない!!!!!!!!!!!」
基樹「声が大きい、大きいよ。他のお客さんいるから。すみません」
遥加「うぅ…」
基樹「はい、あ、いきます。ちょっと呼ばれたから待ってて。」
遥加「やだ」
基樹「やだじゃないよ。ちょっとだけね」
遥加「うん」
<間が空く>
基樹「ごめんごめん」
遥加「…………」
基樹「……どーした?」
遥加「…………」
基樹「泣いてる?」
遥加「ないでない」
基樹「どう見ても泣いてるじゃん、マスカラすごいことになってるよ」
遥加「ないでない~~~~~」
基樹「はい、新しいおしぼりと水。酔いすぎ、だから言ったのに。」
遥加「飲みたかったんだもん~~~~~!」
基樹「ほら水飲んで」
遥加「わたしはいっしょうかれしができない~~~~!」
基樹「そんなことないよ、多分」
遥加「多分って何~~~~~~」
基樹「いるよ遥加のこと本気で好きになってくれる人」
遥加「あんたに言われても~~~~~~~」
基樹「そうだよね、ごめん」
遥加「う、う」
基樹「俺だって一生恋人できない気がするよ」
遥加「そんなことないよ、多分」
基樹「ありがとう」
遥加「なんかむかつく~~~~~~~~~」
基樹「なんでだよ」
基樹「そんなに恋人、ほしいの?」
遥加「ほしいよ結婚したい」
基樹「結婚か…」
遥加「ごめんて」
基樹「何で謝るのさ」
遥加「…結婚できないふたり」
基樹「結婚ってそんなに重要?」
遥加「……」
基樹「家庭持って、子供育てたり、一緒に住んだりできる相手が欲しいってこと?」
遥加「………女の子の憧れ」
基樹「越した事はないかもしれないけど、俺は好きな人が幸せだったら
それでいいかな。その人にとって一緒にいて幸せなのが別の誰かなら
その誰かと一緒にいてほしい」
遥加「自分が幸せにしてやる~!とか、自分といた方が幸せだぞ!とかないの?」
基樹「そんな大した人間じゃないよ俺は」
遥加「じゃあ、好きな人が失恋してる時は?相手が他の人を想ってても
俺が幸せにしてやるぜ、来いよってならない?」
基樹「何でそんな少女漫画風なの?」
遥加「私はそう思うんだもん。じゃあ私と幸せになろって」
基樹「ならないかなあ」
遥加「ネガティブ」
基樹「そうかな」
遥加「うん」
基樹「自分に自信はないな、確かに」
遥加「誰かにそう言われてもなびかない?」
基樹「なびかないかな…叶わない恋をしてたとしても、俺がその人のこと
好きな気持ちは変わらないから、それで別の人と付き合うのはね」
遥加「あそー」
基樹「そういうの言われて遥加はそっちに転んじゃうの?」
遥加「かも。単純だもん私」
基樹「12回フラれてるんだから、もう少し慎重になったら」
遥加「数打ちゃ当たるかも」
基樹「遥加らしいね」
遥加「…………つらい」
基樹「デザートは?お腹入る?」
遥加「入る」
基樹「クレマカタラーナ」
遥加「わかるように言ってよ」
基樹「クリームブリュレみたいな感じ。表面はカラメルがパリッと」
遥加「食べたい」
基樹「いいよ。待ってね」
遥加「………………」
<間が空く>
基樹「はい、どうぞ」
遥加「ありがと」
基樹「………」
遥加「………」
基樹「更にテンション下がってるじゃん」
遥加「………」
基樹「元気だしてよ」
遥加「でないよ馬鹿」
基樹「………俺にしとく?」
遥加「嫌い~~~~~~~~~!!!!!」
基樹「ごめん、ごめん」
遥加「人に上辺の言葉を本気にするなとかどうとか、言ったばっかりのくせに~!」
基樹「ごめんてば」
遥加「…あんたも大変だよね」
基樹「そういう宿命さ」
遥加「かっこつけたこと言って…」
基樹「どうしようもないよ。一回勇気を出してみたものの、もう二度と
気持ちを告げないって思うくらい酷いこと言われた」
遥加「うん」
基樹「次に好きになった人には告げる勇気ないよ。その人が幸せならそれでいい」
遥加「私と付き合ったら幸せかもよ」
基樹「付き合えないよ」
遥加「はい、13回目~。…あんたにフラれるのは2回目。…もしかして
ずっと好きなんだ?」
基樹「うん」
遥加「すごいね」
基樹「たまに食べに来てくれるんだよ?」
遥加「そうなの?聞いてない」
基樹「エビのアヒージョ必ず頼んでくれるんだ」
遥加「げえ。そういうアヒージョだったのさっきの」
基樹「人気のメニューだもの」
遥加「はあ、何か自分の失恋が馬鹿らしくなってきた」
基樹「よかった」
遥加「チェックで」
基樹「ありがとうございます。3900円です」
遥加「あい。5000円で!」
基樹「はい、ちょうどお預かりします」
遥加「ぼったくり!!!ネットに拡散してやる~!」
基樹「うそうそ。1100円。今日はありがとう。気をつけて帰って」
遥加「ねえ」
基樹「はいはい?」
遥加「兄貴にバイセクシャルか聞いておこうか?」
基樹「えっ?い、いいよ」
遥加「本当に?」
基樹「……じゃあお願いします」
遥加「はーもうサイアクすぎ~!!!!」
基樹「次は良い人見つけてね」
遥加「絶対先に幸せになってやる。あんたも頑張って」
基樹「お互いにね」
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大熊柚貴
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